終わりのある物語「きのう何食べた?9巻・よしながふみ・感想」
きのう何食べた?9巻読みました。
相変わらず面白かったです。
今回は夏ってことで、涼しげな表紙です。
おっさんふたりが並んでるのに涼しげもクソもないですが。
生活を見直す一冊
きのう何食べた?の面白いところって、読んでると料理がしたくなるところですよね。
というより、自分の生活を改めたくなるんですよ。
あまりにシロさんがしっかりものだから、自分のダメさを嘆きたくなるんですよね。
で、ケンジがあまりにも幸せそうに食べるから「あー僕もちゃんと料理して、ちゃんと生活したいなあ」と今のぐだぐだな生活の中で思うわけです。
で、きのう何食べた?を読んだあとだけはこまめにスーパー行ったりして料理も頑張るんですけど……なかなか続かないんですよね。
でも読むと生活がリセットされる本というのは非常に貴重だと思います。
生活を見直せる漫画ってあんまりないですからね。
きのう何食べた?は日常に寄り添ってるから、肩肘張らずに読めるし料理も真似しようと思えるのがいいです。
僕は4巻の長ネギのコンソメ煮が好きでよくあと一品欲しいときにつくって食べます。
あれ簡単で美味いんですよ。
シロさんカッコよすぎ
今回はシロさんの話が多かったなあ、という印象。
そんでもって、シロさんはいい男だなあ……と思った。
一番は両親に「正月にケンジを連れてくるな」と言われたから「もう俺は正月には帰らないから」とケンジに告げたときの場面のセリフ。
「ただ俺は俺にとって一番大切な人と正月を過ごしたい
いいじゃねえか、お前と俺だけで」
なんだこれ惚れるわ。カッコイイなあ。
シロさんも年齢を重ねるにつれて、考え方が小さく変容してきたことを伺わせる9巻ですが、もうケンジと死ぬまで一緒にいることの決めたのでしょうね。
考え方が「他人がどうこうよりも、ケンジと一緒にいることを尊重したい」
というふうに変わっていって、シロさんの優しさが垣間見えます。
花見や旅行だけではなく、さらっと一緒に買い物も行ったりしているところを見ると、初期のころとは大違いですね。
ふたりの関係性も少しずつ少しずつですが、変化しているのをここ2~3巻で如実に感じます。
僕はシロさんみたいな人に憧れますけど、好きな人はケンジだなあと思った。
いつも笑顔で、周囲に気が遣えて、食べ物の好き嫌いがない(←これ重要!)。
ケンジみたいな人は結構いないもんだよな、としみじみ思いました。
もちろん僕は女性が好きです。一応。
これは「終わり」のある話
シロさんも50歳なんですってね。
この「きのう何食べた?」はサザエさんみたいに永久に続く話ではなく、ちゃんと年を取り、作中でも老化の現象が訪れます。
今回ですと、老眼鏡の話とかシロさんの母の癌の話とか。
だんだんとそういうエピソードが増えていくのを感じていましたが、9巻で実感しました
これは「終わり」すなわち「死」がある話なんだな、と思いました。
永久に続く物語ではなく、ふたりが死ぬまで続く物語なんだろうか……と思いました。
ラストに関してはどうなるかはわかりませんが、ゲイであるふたりがどういった「終わり」を迎えるのか、彼らが幸福に生きられたのか……
それを見届けるための「生活」を描いた漫画だと思います。
そこに切なさを感じましたが「日常」を描くうえで欠かせないものです。
死は誰にでも訪れる唯一の事実である以上、それを描かずにはいられないのだと思います。
よしなが先生はきのう何食べた?のふわふわ以外にも、人の心情を鋭く射抜く描き方もできる方です。
きっと「日常に存在する喪失」も鮮やかに描いてくれることでしょう。
できれば幸福なラストを……と願うばかりです。
まとめ
こんなにも続くとは思っていなかったきのう何食べた?
ゲイ漫画なの? と邪推する前に是非手にとってみてください。
これは大人の為の「生活」の物語です。
10巻の感想も書きました。