熟成する生活「いぶり暮らし」
「いぶり暮らし」を読みました。
腹は減らないけれど、ゆっくりとした時間を過ごしたくなる漫画だった。
相変わらずグルメ系漫画が好きな僕ですが、いぶり暮らしはそんな僕にぴったりの漫画でした。
内容としては
男女ふたりが一週間に一度だけ訪れる共通の休日に、燻製をつくってまったりしようぜ!
って感じなのですが、僕は日常感溢れる漫画が好きなので楽しめました。
この世の全てを見つける笑いあり涙ありの大航海漫画!とかも好きっちゃあ好きなんですけど、やっぱり僕は「日常を生きている人間が、ただ日常を生きる漫画」がとても好きなんだなと思いました。
雑な言い方すると、「喰う寝るふたり、住むふたり」を食事方面にちょっと重きを置いてみましたーって感じの作品かな。
「いぶり暮らし」の大事なところは「いぶり」と「暮らし」が表現できているところだと、僕は思います。
この漫画の「いぶり」
燻製をしているふたりの様は非常に楽しげだし、説明も丁寧で「ああ、やってみようかな」という感情を引き起こすことに成功している。
作中のふたりが「これ燻製してみない?」って感じで手探りながら作業しているのも、観ていて他人行儀がしなくて心地いい。
僕の中にあった「燻製ってめんどそうだし、難しそう」という感情を取り払ってくれたことも凄くこの漫画の価値を高めた。
作中に燻製をはじめてみたい人へのアドバイスとかも書いてあって、こういうちょっとしたことで僕の作品への好感度はめきめき上がる。
いまいち調べもせずに「めんどそう」と思っていたのですが、読んでみると非常に手間もコストもかけずに楽しめそうだなと思えました。
なにより作中のふたりの生活模様が「ああ、僕もその輪に入りたいな」とか「こんなふたりの暮らしっていいな」と思わせてくれた。
日常もので一番大切なのは、「その日常に憧れること」だと僕は思っている。
ファンタジーならいくらか諦めがつくことも、日常だと「日常」だから再現できてしまうようなことが多い。だから憧れがより肉体的になる。
僕はこのふたりの生活に憧れた。
その時点で、この漫画は僕を殺害することに成功していると言えるだろう。
引っ越したら燻製やってみよう、と思えた。
この漫画の「暮らし」
この漫画は燻製漫画であるのと同時に、男女がふたりで過ごすことの大切さをうまく表現できていると思いました。
ただただ燻製をしている作品ではなく、燻製という要素を「生活」に落としこんでいるなと思いました。
この漫画で暮らす、巡とよりの暮らしの中に燻製が溶けこんでいるのがよかった。
ふたりのリアルな生活が描けているからこそ、その中でひとつ異端なもの(この場合は燻製)が光る。
グルメ漫画でもなく生活漫画でもなく、両方を活かしている作品になっていると思う。
なんか彼らってふとした会話が生々しくていいんですよね。「ああ、こういう会話するよね」って感じで。普通の男女って感じで。
ちゃんとキャラが生きてる。キャラが立っているってことではなく、「ああ、こいつら生活してんなあ」と思わせてくれる。
いぶりと暮らしを両立させるコマ割
この作品で「おおっ」と思ったのはコマ割りなんですよね。
いぶり暮らしって必ず1話に2ページ8分割のコマ割りが入るんですけど、これ狙ってやってるとしたらかなり素晴らしいなーと思いました。
2ページを8分割することによって、作中の時間経過を表現しつつも、ふたりの生活模様を描くことに成功していると思ったんですね。
僕は「おお、なるほど」と感心したんですが、みなさんどうでしょう? 考えすぎですかね。
燻製を描くにあたって、「待つ時間」というのは外せないとは思うが、それを生活に入れ込む技量はちょっと感心してしまった。
まとめ
この作品で得たちょっとした知見、というか「あ、いいな」と思えたのが
「愚痴を聞いてもらったときは、その日あった『いいこと」も話す」
っていうのがあって、これを見た時、ふたりのリアルな生活が垣間見えてきたし、普通に感心もしてしまったしで、うまい表現やなと思いました。
予期せぬところで、生活感が滲むとのめり込みやすくなりますね。
あとこれ普通に良さそうですね。愚痴聞くのって基本的にしんどいですけど、こういうルールがあればいくらか良さそうです。
結構おすすめです。はやく燻製やりたい。