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君とは心中できそうもない「昭和元禄・落語心中6巻」 

落語心中6巻読みました。

昭和元禄落語心中(6) (KCx(ITAN))

昭和元禄落語心中(6) (KCx(ITAN))

 

 相変わらず美しい表紙。与太にも雰囲気が出てきて、なんだかうっとりしてしまう絵だ。漂う色気に惚れ惚れする。

 

感想

さて内容に関してだけれど、まあ布石と清算の巻かなあと思います。

これといって話がドライブするわけではなく……アクセルに足をかけたとかそういう話が多かった印象。与太の話をするにあたっての準備が整ったという感じでしょうか。

ここからいろいろと展開していくとは思いますが、この作品のことですから「怒涛」という感じではなく「踏みしめるように確実に話が揺れ動いていく」という感じでしょうか。

 

今巻で一番印象的だったのは、与太という人間の味でしょうか。

落語家の真打って言ったら、そりゃもう大層なもんですよ。でも彼はそれに驕ることはない。自身の落語に胡座をかくこともなく、噺をしているときお客が笑わない……ってときも決して「今日の客はノリが悪い」といった具合に相手のせいにすることはない。

自分のせいか? もしかしたら環境のせいか? と考え続ける。

そいで最後のお別れに今日来てくださってんじゃ……」という姿勢が非常に心地よい。作中で年月が経過したことで、彼の人間性に深みが出そうとしているのだろう。彼なりの分別を作中で示す場面が多い。彼なりの価値観と言い換えてもいいだろう。

 

自分の大切なものになら、なんだって捧げられるという姿勢は昔から与太はもっていた。ヤクザであったころから、惚れ込んだものには一生を込めて付いていこうとしていた。それをもう一度、八雲と助六編で時間を空けたことも含めて、再確認してもらおう……という意図なのだと思う。

そして彼は無鉄砲で道理に合わないことは大嫌いだということもまた、昔からわかっていたことである。

最初こそ、今まで培ったお行儀のよさと人間的成長で場を取り繕いつつも、最後には怒りをぶちまけてしまいます。

その怒りこそが彼の優しさであることも見事に表現しています。ヤクザ相手にも臆すことなく……いや臆してはいるが譲ることのない信条が彼にはあるから。

この後の展開、息をのむような緊迫感が生まれるわけですが、その描き方が本当にうまい。ヤクザがちゃんとヤクザをやっている。「得体のしれない恐怖」を描けていることに感服した。ヤクザがまったく怖くない漫画が多い中、この親分には僕もゾクッとくるものがあった。

 

そして怒りのまま振り上げた刃、与太はどうする……? と思うわけですが、その仕舞い方、鞘への収め方に成長を感じ、美しさに感動した。

啖呵きりを伏線にしておくことにより、この展開に対して「突然なにを言い出したんだ?」という置いてけぼりを喰らわず、その後のアンサー(気持ちいいからやってるんだろう)に対しても「怒りをぶちまけている」という感情表現の上で描かれている為に説得力が生まれている。

そして鞘の収め方を「暴力」ではなく「落語」で収めることで、この漫画全体から漂う色気を失わずに、かつスマートに着地できていると思いました。

相変わらずこういう美しさを損なわない問答決着の付け方がうまい。感情を全開に発露していて、人間の醜悪さがにじみ出ているのに、どこか浮世のことのように思えてしまう。

良くも悪くもだとは思うが……それこそがこの漫画ならではの魅力だと思う。

 

そして最後に提示された「(与太は)我欲がなさすぎる」という読者の心情を丁寧に切り取りつつも、次への主題を提示するのは毎度のことながらさすがです。

ここまで与太という人間がどういった理由によって、感情を発露させているのかを丁寧に書いているからこそ「確かに」とうなずける指摘になっていると思います。

そして助六の「居残り」の描き方が上手い。

我々読者にもきちんと助六が重なってみえるような描き方。これはズルい。グッときざるを得ない。

 

そして最後の小夏の「父ちゃんの落語がきこえるよ」は痺れました。

これはどちらの意味でも捉えることができて、この巻の締めくくりとしてはこれ以上にないものだと思います。ひとつの決着をつけつつ、つぎの噺へステップを進める感じ。

7.8巻に期待します。なんだかそこで終わりそうな気がしますけれど、それを雑誌が許すか、という問題はありますが……この作品は美しく幕切れしてほしいなあと思います。オチあっての落語ですからね。

 

これとならば心中できるという仕事を見つけた与太が本当に羨ましいです。

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

 

 間違いなく素晴らしい作品ですので、読んだことない……という方は是非この機会に手にとってみてはいかがでしょうか。

 

 次の巻の感想です。

昭和元禄落語心中(7) (KCx)

昭和元禄落語心中(7) (KCx)

 

 

 

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