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青さの向こう側「ブリーピリオド・山口つばさ・感想」

 

ブルーピリオドを読みました。

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)

 

控えめに言って最高でした。今年最高を狙える作品だったけれど、2017年に発売なのか……相変わらずこういう情報には疎い。

 

絵が描きたくなる

そんな気持ちになってしまう。向こう見ずを原動力にした、若々しい感情が蘇ってくる。そんな気持ちになれただけでも、この本を読んでよかったと思います。

絵を描いている人は思わず筆をとってしまうだろうし、そうでない人も思わずなにかをはじめてしまうような衝動を喚起する漫画だと思います。

 

 

描こうとしているのは「青さの向こう側」

この漫画が描こうとしているのは「衝動の向こうにある理性を飛び越えた衝動」であるように思います。

つまり青い気持ちを超えた先にある衝動。初期衝動を理性で抑えこもうとしたものの、それを凌駕してしまった感情を描いている。いわば……中期衝動だろうか。

「絵を描いてみたい」という初期衝動を「美術なんてやっても食っていけない、人生に有益なことがない」という理性で抑え込んだ

 

この中期衝動を呼び起こすに至る美術の先生のセリフが非常に素晴らしい。

「好きなことは趣味でいい」これは大人の発想だと思いますよ

衝動を抑えこんで、この「青さの向こう側」に来なくても楽しくやることは可能で、採算を重要視し、計画的な人生の中で生きていくことは決して悪いことではないですよ。

ということを説くわけだが、どうしても私には

 

(それが本当に楽しいかどうかは別としてね)

 

という心の声が聞こえてくる。いやそれが自分の声なのか先生の声なのかは判断つかないが、確かに「聴こえてしまっているのだ」

聴こえてしまった時点でもうその衝動は止められないのだ……。

「この枠からはみ出してみたい」という感情を的確に描いたのがブルーピリオドの1巻の最高のところだと思う。

 

この一連の流れが最高でした。非常にロジカルなのにエモーションというのは非常に私好み。

ぶっちゃけこの作品はこの一連の流れを描いた時点でちょっと作品としてあるひとつの終着を迎えた節もある。

 

 

青さを終えた人を殺す作品

採算は計画性を度外視して、気持ちだけを武器にして「どうなるかわからない世界」を駆け抜けていくという、非常に気持ちが熱くなる作品ではあるのですが……逆にこの作品を読めない人もいるだろうな……とも思うわけです。

この初期衝動や中期衝動っていうのは誰しも思い当たる感情なんですよね。しかも大抵の場合は「挫折」なんかとセットで思い出しちゃう。

人を奮起させる漫画は、逆に奮起しなかった人や、奮起しきれなかった人を殺す可能性もある。

美術の先生のセリフも含めてワナビー殺し」の側面もある作品であると思います。頑張っている人をみるの辛いときは誰しもある。

そういった意味での「ブルーピリオド」した人たちの物語が描かれると個人的には嬉しい。

 

 

龍二の中期衝動に期待

この作品、キャラがそれぞれ魅了的なのだけれど、やはり龍二は特筆すべきであるように思う。

長くなったので、端的に言うと「枠の外に出ようともがいている彼の『中身』がいつ爆発するのか」が非常に楽しみです。異端になろうとする普通が、どう羽化するのか……というのは物語としての面白さの肝の一つですよね。

 

あと純田くんがめっちゃ好き。皮肉にも彼がいちばん枠の中で堂々としているように思う。

 

ブルーピリオド(2) (アフタヌーンKC)

ブルーピリオド(2) (アフタヌーンKC)

 

 2巻がそろそろ発売みたいです。すでに予約済みだぜ!

 

初期衝動作品

BLUE GIANT(1) (ビッグコミックス)

BLUE GIANT(1) (ビッグコミックス)

 

 初期衝動、といえばこの作品が真っ先に浮かびます。世界一のジャズプレイヤーになりたいという衝動のみで構築されている漫画。

こっちはブルーピリオドと比べると洋画って感じがする。

 

似ているけれど、全然似てない作品

バクマン。 1 (集英社文庫 お 55-27)
 

 逆に言えば、バクマンは初期衝動なんてとっくに終わってしまって、打算で漫画を描いていく作品であると私は思う。漫画に対するモチベーションというよりも成功(性行)のために頑張っている感じ。

初期衝動めいたものは作中で感じられるけれど、どこまでも淡々としている。作品内の骨組みはブルーピリオドとよく似ている。あくまで構造だけだが。

 いや、バクマンは好きなんですよ……念のため。

生きることと死ぬこと「不滅のあなたへ・大今良時・感想」

 

不滅のあなたへの6巻を読みました。

 6巻を読んで一区切りという感じなので、今回は総括した感想になりそう。

6巻の内容に一切触れていない感想ですが……まあ6巻を読んで思ったことなので……。

 

 1巻で切ったという人が多そうな漫画であると思うのですが、この作品を途中で切るのはあまりにももったないと思う。

描こうとしている射程の長さと深さが半端じゃないので、物語が進めば進むほど面白くなっていくのは明白ですし、事実として今回の6巻は前回までのどの物語よりも面白かった。

フシの出来事を通した身体的・精神的な「成長」にフォーカスを絞られているので、巻が進むごとに物語の深みが増す。かつて傷つくという感情すら知らなかったフシが心を痛めているだけで物語になっていく様が本当に面白い。

 

生きる(死ぬ)ということは

大今良時は「生きることと死ぬことにまつわる全て」を描こうとしているのではないか……と思うほどの深さを感じる作品。この作品を読むと生きることということは、すなわち死んでいくことなのだということを痛感する。

これを週刊で描いていて、なおかつ「友情・努力・勝利」の要素はきっちり詰め込んでいる。

全体のテンポも程よい。この物語ならばいくらでも引き伸ばしようがあるのだけれど、意外なほどに小気味よく物語は進む。しかし、心動かされるところは十分に動かしてくる。絵もどんどんと魅力的になっていき、世界観とマッチしている。

漫画として、非常に素晴らしいと思います。

 

 

不滅のあなたへ」は人間であれば例外なく共通する「生きていく(死んでいく)ことにまつわる心の在り様」を描こうとしていると私は思っていて、人は必ず生まれて、必ず死ぬ中でなにを思い、なにを成すのか。生きていくことの尊さと、死んでいくことの尊さをびしびしと感じる作品だ。

 

人は死んでしまったらそこで終わりか? という自問は誰しもあると思うが、不滅のあなたへはフシの能力としてそこにアンサーを出している。

「その人を忘れてしまうことが本当の死」である。

死んでいったものの姿に変わることのできるフシの能力は、「関わりと死」というものを端的に表していると思う。関わったからこそ自分の中にそれが根付く、死んでしまったからこそ消える。

 

そして実のところ、それはフシだけの能力ではなく、人間すべてが持ち合わせていることに気づく。

自分もフシのように出会った誰かを自分の中に残して生きていることに気づかされる。それが目に見えるか見えないかだけの話。

しかし誰に教わったのかも忘れてしまったけれど、身体にはしっかりと残っているものがある。そうなると「人は忘れられても、死ぬわけではない」という結論にも辿りつくことができる。

 

では、人間の本質とはなにか。答えは単純「残す」ことだ。

子孫であれ、技術であれ、思想であれ、残し続けていくことで、人は記憶になり、文化になり、文明になり、形を変えて伝わっていく。

ではフシはなにを残すのか? 死ぬことのできない彼は残し続けることが可能だが、そこに「人としての幸福」は存在するのか?

 

……と、こんなふうにいくらでも妄想できてしまうのがこの漫画のポテンシャルの高さを表していると思います。しかも、それが物語の要素の一端でしかないというスケールの大きさ!

漫画好きだったらいくらでも考察できちゃう要素がてんこ盛りなんですわ!

いま続きが強烈に気になる作品のひとつです。

 

フシがこれからどういう存在になるのか。神と呼ばれる存在になるのか、はたまた人に成ろうとするのか。

全ての生き物が唯一共通する要素である「死」を凌駕した存在はこれから何を思うのか。

大今良時の描く「生きるということ」を最後まで知りたいと思う。

 

 こちらもおすすめ

 不滅のあなたへと一緒にフェアをやっているみたいなので、未読の方はぜひ。

魔法ものはたくさんあるけれど、「自分の得てきた知見を魔法に還元することで成長する」という感じが非常に好み。

主人公の活躍にちゃんと納得ができる作品は良いですよね。あとコマ割がめっちゃ凝っていて、なんども読み返してしまう。